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「変わり兜×刀装具」展

2013年11月22日(金)

久しぶりにM先生と再会した。
この前お会いしたのは、まだ大阪市立博物館が天守閣の前にあったときなので、10年以上昔のことである。
旧大阪市立博物館は、もと陸軍第四師団司令部の建物で、とても重厚な雰囲気だった。

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M先生は、長年この博物館の館長を務めておられ、定年後も、現在の大阪市立歴史博物館が開館する2001年まで、大阪市立博物館を守ってこられた。

私がM先生と初めて出会ったのは、まだ大学の学部生の頃で、専門の国文学とは関係のない「博物館学」の講座を受講した時だった。
先生もまだお若く、「博物館学」の講義はとても面白くて、受講している学生たちは仲が良かった。
よく先生に連れられて、いろんな所を見学に出かけた。
本物を見ることの大切さを教えてくださったのも、M先生だった。

先生は、私の人生の最初期に、まちがいなく大きな影響力をもった人だった。
その後も、折に触れて先生のことを思い出すことがよくあった。

この数年、何度かやりとりがあって、やっと今回の再会が実現した。
現在、大阪市立歴史博物館で「戦国アヴァンギャルドとその昇華 変わり兜×刀装具」という長いタイトルの展覧会が開催されている。
この展覧会の企画の中心は、Nさんという学芸員の女性だが、この方はM先生の愛弟子なのだ。
そんな縁もあって、今回、先生といっしょに大阪市立歴史博物館の展示を見る機会が訪れた。

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これまでも、音声ガイダンスを借りることはあったが、今回は専門家の先生の解説付きで、こんな贅沢な観覧はない。
いろんな兜をはじめ、刀剣に付属する多彩な鍔や小柄や目貫などの刀装具、その斬新なデザインにあらためて感心する。

特に「変わり兜」と呼ばれる人目をひく兜は、おそらく他国にはほとんどない、究極の前衛性を表現している。
展覧会のタイトルに「アヴァンギャルド」と名付けられる所以である。

私達が「兜」という言葉から連想する基本的なイメージは、たとえば彦根市のゆるキャラ「ひこにゃん」がかぶっているようなものだろう。

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「平家物語」に登場する武将がかぶっている兜がそれである。
次の写真の兜、「緋縅五十二間四方白星兜」(南北朝時代 重要文化財)は、その代表的なものと言える。

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ところが、戦国時代に突入し、戦闘方法が変化して行くにつれて、兜の持つ意味が多様化してくる。
上級の武士たちは威厳のある出で立ちを追求し、だれよりも立派で強靱に見える装飾を兜に求めた。
さらに、それまで金属主体だった兜の材料に、革や練った紙を使う「張懸」という技術が加わり、より簡単にデザイン性に富んだ兜の製作が可能になった。

太平の世、江戸時代になり、実戦はなくなっても、甲冑は刀剣とともに武士の魂として生き続ける。
工芸技術の発展によって、多種多様な「変わり兜」が作られ、大名家で代々受け継がれていくのである。

今回の展覧会、「戦国アヴァンギャルドとその昇華 変わり兜×刀装具」で印象的だった「変わり兜」を、図録から抽出して、アトランダムに並べてみよう。

鉄黒漆塗十二間筋兜・鹿角脇立付(桃山時代 重文)
徳川四天王のひとり、本多忠勝の所有。
鹿角の脇立が強烈で印象的だ。

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朱漆塗桃形兜(桃山~江戸時代初期)
藤堂采女が大坂夏の陣で使用した具足の兜と言われている。
真っ赤な兜の鉢の両脇に、兎耳形の大ぶりな脇立が挿入され、とても人目をひく。

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黒漆塗三十二間筋兜・鉄線前立・三日月前立付(江戸時代)
眉庇に北斗七星、銀細工の鉄線の花、そして三日月の前立。
厳めしい飾り兜が多い中で、とりわけ優雅な雰囲気が目立っていた。

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鉄錆地栄螺形兜(江戸時代)
見たとおり「サザエ」の形に、薄い鉄板を打ち出して作られている。
突起や渦もリアリティがある。
これが「かっこいい」とは、あまり思えないけど・・・。
鉢の内側に、短冊に書かれた「小原勝成」という銘がある。

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板屋貝形兜(江戸時代)
土佐山内家に伝わる兜で、張懸で大きな板屋貝を作り、鉢の部分に被さるように立つ。
確かに人目をひくこと、間違いないが・・・。

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白糸威笠子形兜(江戸時代)
これも、土佐山内家に伝わる兜。
つばの広い西洋のシルクハットを象った奇抜な形で、正面に五言絶句の漢詩が書かれている。
まったく強そうには見えないが、兜らしくないところが、この兜のよさなのかもしれない。
中央頂部に、かつては頭立があったと思われる痕跡がある。
どんな飾りが付いていたのだろう?

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総白髪形兜 頬当付(江戸時代)
ヤクの毛で、頭・髭・眉のすべてを白髪にしている。
額の部分と頬の部分にシワをつけて、いかにも老人らしさを演出する。
かなりリアルなかぶり物である。

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肉色塗入道頭形兜(江戸時代)
これも同じように、頭に部分と目から下の部分に分かれていて、顔全体を覆う兜。
鼻の上、両眼の間に蝶番があり、上下が固定される。
このリアル感がこわい。

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熊頭形兜(江戸時代)
そのものズバリ「熊」である。
もちろん剥製などではなく作り物であるが、「ホンモノらしさ」を追求している。
耳の内側・鼻・口に朱漆を塗り、歯には金の溜塗が施されている。

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銀溜塗釘抜形兜(江戸時代)
鉢自体は普通だが、正面から頭上にかけて「赤い釘抜」の装飾が奇抜である。
全体にとてもバランスがよく、美しい兜だ。

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これら以外にも、面白い兜がいっぱいあった。
さらに、刀剣の鍔や小柄などにも奇抜な意匠が施されているものが多数あり、見飽きぬ展覧会だった。

by koma-jin | 2013-11-22 15:55 | Art & Museum